グリーク「山の娘」

sbiaco2007-05-18



franzさんのところ(「歌曲雑感」)で紹介されていたので興味をもって購入("GRIEG: PEER GYNT, PIANO CONCERTO etc.", EMI)。シーヴ・ヴェンベルイという歌手は名前も知らなかったが、首すじがぞくぞくするような美声の洪水に完全にノックアウトされてしまった。なまめかしさと才気との理想的な混交、そしてそれを包みこむスケールの大きさ。オペラ歌手にありがちの化粧くささがないところがまた好感をそそる。聴いた印象でいえば、同じくワーグナー歌手のレジーヌ・クレスパンに近い。どうもわたくし、この手の歌手には無条件でシャッポを脱いでしまう傾向があるようだ。

グリークの歌曲はいままでフォン・オッターのもの(グラモフォン、これも名盤)を聴いていたが、歌い方は両歌手とも意外に共通している。6曲目のようにいろんな解釈ができそうな曲でも、歌い方はほとんど同じだ。この解釈の共通性をどう解釈したものか。オッターがヴェンベルイの影響を受けているだけなのか、それとも伝統的にこういうふうに歌うという暗黙の了解(?)のごときものがあるのか。

ピアノのジョフリー・パーソンズの演奏を聴くのもたぶんはじめてだ。録音のせいもあるのかもしれないが、やはり私の好きなボールドウィンに似ているので、いっぺんで好きになってしまった。ちょっと暗めの歯切れのよくない和音の下に、どれほどのゆたかな情緒が流れていることか。訥弁の雄弁とはこのことかと思う*1

このディスクでは、ヴェンベルイのあとフィッシャー=ディースカウの歌が入っているが、この大歌手について云々するのは自分には10年早い(いや、もっとか)。それにしても、このひとどうしていつもこう歌い方が同じなのか。なにを歌ってもフィッシャー=ディースカウというのもある意味ですごいことだと思うが、どうもいささかニュアンスに欠けるような気がするのは僻目か。

*1:といっても、けっして指さばきがたどたどしいとかいうことではない。テクニック的には非常に高度なものをもっていると思う