ラヴェル「歌曲集」

sbiaco2007-04-21



エリー・アメリンクとルドルフ・ヤンセンがエラートに吹き込んだもの(1985年録音)。これは某老舗サイト(ドビュッシーラヴェル関連の)でぼろくそに叩かれていたので、あまり期待もしなかったが、じっさい聴いてみるとじつにすばらしい。いったいこれのどこに問題があるというのか。これがダメなら、アメリンクの録音はすべてNGということになってしまうではないか。こういう傑作にいちゃもんをつけるとは、もうアメリンク個人に対してなにか含むところがあるとしか思えない。

アメリンクはリート(ドイツ歌曲)もメロディ(フランス歌曲)も歌うが、どちらかといえばメロディのほうが向いていたのではないか。もともと声そのものがちょっと鼻にかかっているので、鼻母音がうまく響くような気がするのかもしれないが、それだけではなく、彼女の歌うメロディにはクラシック・バレエにも通じるような躍動感があって、これが自分にはひどく魅力的なのだ。声の動きが肉体的な動きをシミュレートしているといえばいいか。こういう要素を感じさせる歌手はけっして多くはない。そして、この要素はリートよりもメロディにおいて顕著であるように思われる。

このCDの目玉は、小さい管弦楽を使った「ステファン・マラルメの三つの詩」だろう。これは何度聴いても「やられた!」という感想しか出てこない。雅楽のような冒頭だけで背筋がぞくぞくしてくる。ここでの管弦楽の効果をひとことでいえば、「雑音」ということではないか。もちろん不協和音を発しているわけではないが、全体としてみればやはり雑音というしかないだろう。この「雑音」成分がいかに人間の感覚の深いところを刺激するか、それはこの曲そのものが雄弁に示している。それにしても、古典的な楽器を使って雑音を出すなんて、ラヴェル以外のだれが思いつくだろうか。まったく悪魔的な狡知としかいいようがない。

それ以外の曲も、小粒ながらどれもすばらしいものばかり。アメリンクの声も完全に円熟期に達したかのような安定感がある。こういうのがあるからアメリンクのCD漁りはやめられない。