「トルヴェールとトルバドゥール」

sbiaco2007-03-06



ハルモニア・ムンディのセンチュリーシリーズの一枚。内容がつまらないわけではけっしてないけれども、いざ感想を書こうとすると筆がすすまない。データ的なことを記すのはめんどくさいし(それにたぶんだれも読まない)、ブックレットの解説を紹介するほど暇ではない。さてどうするか。

吟遊詩人といえば自作自演(いわゆるシンガー=ソングライター)のイメージがあるが、沓掛氏の本によると、トルバドゥールは曲は作るけれども必ずしも自演していたわけではなく、演奏のためにはべつにジョングルールと呼ばれる人々がいたらしい。辞書でジョングルールをひくと「吟遊詩人」と出ているが、彼らは職業的な歌手=演奏家だったのだから、むしろ「吟遊楽人」とでもしたほうがいいだろう。

とすると、今回のCDに入っているのはいわば現代のジョングルールによる演奏だということができる。ジョングルールも現代になるとずいぶん洗練されていて、ここに聞かれる音楽もとても中世音楽とは思えない。掛け値なしにいまのポピュラー音楽で通用する。ビートルズとはいわないけれども、サイモン&ガーファンクルから現代ふうのアレンジをとっぱらったら、ちょうどこんな感じになるのではないか。インストルメンタルの曲などは、演奏者が当時の(たぶん)不完全な楽譜をもとにして、好き勝手に即興演奏をしているとしか思えない。

いずれにせよ、これを聴いていると、トルバドゥールの時代が同時に十字軍の時代でもあったことが思い出されてくる。そしてそれは騎士道がもっとも華やかだった時代でもある。騎士道は武士道とはちがって両性具有的だ。トルバドゥールがその女性的側面を代表するものだとしたら、十字軍はその男性的側面を代表するものだろう。この香水の匂いと弓矢の匂いとをあわせもっているのが騎士道のおもしろいところだと思う。