「マルセル・シュオッブ、金の面をかぶった男」

sbiaco2006-08-04



去年(2005年)はシュオッブの没後100年だったが、これといってイヴェントもなかったようだ。ところが今年になってナントで回顧展がひらかれたらしい。この本はそのときの図録で、通常ではなかなか見ることのできない写真や図版が満載である(ガリマール書店、ナント)。

もちろん文学者の回顧展だからそんなに派手な展示物はなくて、彼のもっていた珍本や原稿、友人たちの手紙、ポートレート、家族の写真、劇のチラシ、ポスターなどがメインだ。しかし、どれもすばらしく印刷がよくて、居ながらにして展覧会の雰囲気を味わうことができる。

この本にはシュオッブが友人からもらった手紙がたくさん収められているが、その筆跡がそれぞれまったく違うのには驚く。同じ時代の人間が書いているのだから、似たようなものになりそうなものだが。シュオッブそのひとからして、時と場合によって別人のような字を書いている。

これらの手紙の筆跡のうち、いちばんすごいのがマラルメのものだ。ぱっと見たところでは、ローマ字ではなくてアラビア文字にしかみえない。当然のように判読不能。また、コレットが意外に字がうまくてびっくりした。手紙なのにもかかわらず、中世の手書本みたいな美しい字体なのである。

美術品ではエミール・ガレの陶製の猫の置物(首輪にシュオッブの本の題名がついている)や、カミーユ・クローデルの作った弟ポールの胸像、ジョゼフ・グラニエの描くマルグリット・モレノ(シュオッブ夫人)の肖像画、それにシュオッブ自身の胸像なんていうのもある。まあ、こういうのは回顧展ならではの展示物だろう。

マルグリット・モレノといえば、EMIから出ているフォーレの歌曲全集に使われている肖像画のモデルは彼女ではないだろうか。根拠があるわけではないが、どうもそんな気がしてならない。