ホイジンガ「中世の秋」


上巻読了(堀越孝一訳、中公文庫)。

これはやはり名著だ。というのも、この本に書かれている内容はすでにあちこちで引用されまくり、消費されまくっているので、本書を直接読まない人間にもだいたいの内容が知られてしまっているからだ。読まれずして読んだ気にさせるとは、名著にしか許されない特権だろう。ダンテの「神曲」しかり、ゲーテの「ファウスト」しかり。

とはいえ、名著にはやはり現物に接してはじめてわかる醍醐味のようなものがある。その点、この「中世の秋」はどうだろうか。上巻を読んだだけでは断言できないが、どうもあらゆる意味でパンチ不足だと思う。ひりひりするような刺激を求めてよんだらがっかりすることうけあいだ。

この印象には、たぶん訳文の質もおおいに関係しているだろう。妙に間延びした仰々しい文体になじむにはだいぶ時間がかかる。名文でなくていいから、もっとサクサク読めるものにしてほしかった。

もうひとつ気になったのは、ブルゴーニュ公をなぜかブルゴーニュ侯と表記している点だ。ほかにもオルレアン侯、ベリー侯と、ふつうではない表記になっている。どっちでもいいようなものかもしれないが、それだけいっそう「侯」にこだわる訳者の気がしれない。