デヴィッド・マンロウ「宮廷恋愛の技法」

sbiaco2006-07-02



中世音楽のCDは、ちょっと気を抜いているとたちまち廃盤になってしまい、やがて確実に入手困難になる。名盤といわれるものですらそうなのだから、気になるものは見つけしだい買っておく必要がある。といっても、一度にそうたくさん聴くわけにもいかず、とうぜん積読ならぬ積ディスクがふえることになる。私は本の積読は嫌いだが、積ディスクもうっとうしいことに変りはない。なにか急かされているような気になるからだ。

このディスク(原題:THE ART OF COURTLY LOVE、ヴァージン・クラシックス、EMI原盤)も2枚組で155分もあるから、ぜんぶ通して聴くのはなかなか気が重い。もともとは単独で出た3枚のディスクを2枚に収めたもので、そのことも妙な圧迫感を増すもとになっている。CDなんだから、適当につまみ聴きや飛ばし聴きをすればいいようなものだが、それがなかなかできない。そんなことをしては製作者に申し訳ないような気になってしまう。

ブックレットにはジョン・ターナーというひとが序文をよせていて、それを読むと、マンロウがいかに非凡な人間だったかがよくわかる。残された分量だけみても驚異的なレコーディングを別にしても、国内外のツアー、大学での授業、655本にのぼるラジオの台本書き、楽器の文献調べなど、その精力的な仕事ぶりには目をみはるばかりだ。彼は34歳でなくなったそうだが、まさに命を削りながら仕事をしていたのではないか。

このCDは1973年に録音されたもので、いまの水準からすればやや荒削りな印象は否めない。しかし、14、15世紀の世俗音楽をこれだけまとめて出したということは、やはり当時としては画期的なことではなかったか。これを聴いていると、いままで縁遠かった14、15世紀のヨーロッパがにわかに身近なものに感じられるようになってくる。そういえば、この時代のフランスとブルゴーニュ公国とを扱った名著にホイジンガの「中世の秋」がある。これも長いこと積読になっていたが、そろそろ読んでおくべきではなかろうか。機が熟すとはまさにこのことだと思う。