子供のための音楽

sbiaco2006-05-27



某ブログでムソルグスキーの「子供部屋」が取り上げられていたので、うちにあるディスクを聴きなおしてみた。これはムソルグスキーの三つの歌曲集をニーザーランズ・ウィンド・アンサンブルという管楽器主体の小オーケストラの伴奏でやっているもの。オリジナルではない点、ちょっと不満が残るが、ヘールト・ファン・ケーレンの編曲はかなりすぐれたものと思われる(CV 80 Doremus)。

じつはこのディスク、ずいぶん前に買ったものの、まったく捉えどころがなく、鑑賞不能ということで長いこと放置していた。なにしろ冒頭の「子供部屋」からしてまったく子供部屋らしくなく、むしろ「癲狂院にて」と題したほうがいいような、ひどく落ち着きのない音楽なのである。旋律も曲想も調性も、すべてとりとめがない。とにかくふつうの歌曲を聴くつもりで聴いたら、まったくの期待はずれに終ってしまう。

そんなわけで、この曲集については、いまだに感想めいたものが書けずにいるが、さて子供部屋にふさわしい音楽といえばどんなものだろうか。自分の子供のころをふりかえってみると、思い出される曲のほとんどがいわゆる「セミ・クラシック」なのである。「軽騎兵序曲」だとか、「チゴイネル・ワイゼン」だとか、まともな大人のクラシック・ファンなら洟もひっかけないような曲ばかりだ。

そんなセミ・クラシックのなかでも、自分にとって横綱級のものがチャイコフスキーの「くるみ割り人形」とサン=サーンスの「動物の謝肉祭」だった。チャイコフスキーの曲はちょっと前にCDで買って聴きなおしてみて、やはりいい曲だと思った。そして、数日前、中古屋へ立ち寄ったとき、めぼしいものが見つからないまま、ついサン=サーンスの「動物の謝肉祭」を買ってしまった。

これは自分が最近ひいきにしているフランス・ハルモニア・ムンディのもので、ほかに「ピアノ五重奏曲イ短調」、「ギーズ公の暗殺」が入っている。演奏しているのはアンサンブル・ミュジック・オブリック。曲によって音量にばらつきがあるようにも感じたが、総じて安定した演奏で、とくに思い入れのなさそうなところがよい。ハルモニア・ムンディのCDはこの思い入れ(感情移入?)のないところに特徴がある。ヴォリンゲルの用語を使えば、抽象的、ということになるだろうか。

これを聴いていて、あらためて子供のころの記憶力とはすごいものだと思った。学校の授業で二、三回聴いただけなのに、ほとんどの曲が頭に入ってしまっている。思えば当時は音楽的な環境が極端に貧しかった。家にステレオはなく、まともな音楽に接する機会といえば、学校の音楽の授業しかなかったのだから。しかし、それだけにまた音楽鑑賞の時間は私に非常な喜びをあたえたし、聴いた作品の数が少ないだけ、ひとつひとつが強く印象づけられたのだと思う。

自分がいまだにCDや本を買いつづけているのは、もしかしたら子供のころの飢渇感がずっと尾をひいているのかもしれない。