「聖フランシスコ・デ・サビエル書簡抄」


上巻読了(アルーペ神父、井上郁二訳、岩波文庫)。和辻哲郎の「鎖国」からパジェスの本をへて、同系列の本の三つめだ。途中、いろいろ寄り道はしているけれども、いちおう今年の本筋はキリスト教関連のことになるだろうという予感がある。といっても、べつに殊勝な発心をおこしたわけではない。ただ、いままで縁遠かった宗教というものが少しだけ身近なものに感じられるようになってきたというだけのことだ。

さて本書だが、前のパジェスの本と並んで、自分の生涯のベストになりそうな気がする。まず「緒論」がすばらしい。サビエルといえば、だれでも名前くらいは知っているが、さて彼がどんな人物だったかを知る人は意外に少ないのではないか。多くの宗教者と同じく、彼にも回心があった。イグナチオ・デ・ロヨラとの出会いである。その間の経緯が、この「緒論」にくわしく書かれている。

「緒論」だけでも読み物としてじゅうぶんにおもしろいが、これを読めばどうしてもつづく書簡集に読み進みたいという衝動にも似た思いが勃然とおこってくる。まことにイントロダクションとしては申し分ない。で、つづく書簡集だが、これにはいちいちその前に解説がおかれていて、また後に註がついている。この解説がまたすばらしい。それぞれの書簡の読みどころを的確におさえていて、後の註とあいまって間然するところがない。

そして、書簡にみられるサビエルその人の面目はどうかといえば、これはもう信念の人というしかない。全身全霊、神の恩寵だか聖寵だかに満たされていて、彼がたどった地上の足跡だけみても偉観とするにたる。真の達人にあっては、観照的生活と活動的生活とがけっして矛盾するものではないことを、彼の全生涯が証明しているかのようだ。

というわけで、思わず力がはいってしまったけれども、この本は上巻がおもにインドでの布教を扱っていて、下巻ではいよいよ日本での伝道のことが語られる。サビエルその人の口から当時の日本の様子がうかがえるのだ。われわれにとっては書簡集の核心といってもいいだろう。

最後にもうひとつつけ加えておくと、この本を読んでまた気になった本として、イグナチオの「霊操」と聖女テレジアの「霊魂の城」がある。「霊操」は岩波文庫で出ていたと思うが、「霊魂の城」は見たことがない。これらも機会があれば読んでみたい。