ブリュメル「12声のミサ曲」

sbiaco2007-04-14



Scarboさんの記事(http://d.hatena.ne.jp/Scarbo/20070314/p1)を読んで興味をもったもの。ファン・ネーヴェルとウエルガス・アンサンブルによる1990年の録音の再発(ソニークラシカル)。

やはり興味の中心は12声をどう動かしているのかということだが、自分の耳にはそのあたりがよくわからなかった。ポリフォニーとひとくちにいってもいろいろあるが、いまの人間(それもアマチュア)にとっては、けっきょくのところ、この形態の最高の結実であるバッハの音楽を基準にしてあれこれ評価するしかない。で、そのバッハ越しにこの音楽を眺めると、対位法というよりも、各声部がかたまりになった和音の連続のようにきこえる。12の声が混ざりあって、まるでスペクトルが収斂するように、ただ一色の白い光になっているかのようだ。

その光はあくまで天上的で、天国の音楽というものがもしあるとしたら、まさしくこのブリュメルの曲がそれにあたるのではないか、と思わせる。そして、それは天国の音楽にふさわしく、やや退屈でないこともない。なにしろ展開というものがほとんどなく、音楽そのものが宙に浮き上がって同じことをえんえんとつづけているような感じなのだ。演奏者のネーヴェルはこれを後期ゴシックのフランボワイアン式になぞらえているけれども、私なんかはむしろ天使のヒエラルキーを連想してしまう。各声部にあてられた天使たちが階層をなして神をたたえている、みたいな感じの。

作曲者のブリュメルは当時はかなり有名だったらしく、ラブレーの「第四の書」にも言及がある。といっても、序文にちらりと名前が出ているだけだが。ラブレーはブリュメルの音楽を聴いていたのだろうか。たぶん聴いていなかっただろう。教会ぎらい、坊主ぎらいのラブレーが宗教曲に耳を傾けているところは想像しにくい。それに、ラブレーがブリュメルたちの歌っているのを聴いたというその曲はとんでもなく卑猥な俗謡なのだから。