アビラの聖女テレサ「霊魂の城(神の住い)」

sbiaco2006-05-02



長崎の「聖母の騎士社」という小さい(?)出版社から出ている「聖母文庫」の一冊(高橋テレサ訳)。こんな文庫があるとは知らなかった。目録をみると、けっこうおもしろそうな本がある。この本屋はまた「聖母の騎士」という月刊誌も出していて、最近のバックナンバーはオンラインで読めるようになっている。

さて、この「霊魂の城」だが、これは聖女テレサの内的体験をつぶさに述べたものだ。ここにはとても一般人に起るとは思えないような法悦の体験がことこまかに書き連ねられている。ベルニーニの彫刻やボーヴォワールの引用などを見て、これはひょっとしていかがわしい願望のあらわれではないか、などと思うひともいるようだが、私の読みとったかぎりでいえば、これはエロチックな体験とはなんの関係もない。というのも、同じような法悦は、程度の差こそあれ、男性の宗教者(たとえば聖フランチェスコや聖サビエル)にもみられるからだ。

といっても、この本は神秘的体験のたんなる報告書でもなければ、そのためのマニュアルやガイダンスのたぐいでもない。これはやはりイグナチオの「霊操」のような、精神修養の書とみるのが妥当なところだろう。彼女がすすめるよき行いは、それ自体とってみれば目新しいものでもなく、むしろ陳腐といってもいいようなものばかりだ。たとえば、神に祈ること、卑下すること、隣人を愛すること、など。しかし、こういったごく平凡な教えも、彼女の口から出ると平凡でなくなる。さらに、彼女の口からはこんな言葉が飛び出す。

「人間が真に霊的になるとはどんなことか、あなたがたは知っていますか。それは神の奴隷となり、そして奴隷としての印、すなわち主の十字架の焼印をいただくことです」

どこかマゾッホの小説の言説と響きあうような気がしないだろうか。