北原綴「美少女奇譚」


中年男による少女姦の物語(創林社、1987年)。と書くといかにもアレだが、内容はわりあいしっかりしているし、宇能鴻一郎ばりの文体もわるくない。なによりもこれは著者なりの「罪と罰」なのだと思う。北原綴が書きたかったのは、犯罪にまつわる実存的な心の闇の部分であって、それにくらべれば少女姦の物語などはたんなる口実、プレテクストにすぎない。

この小説には、そんな著者の精神の暗部からにじみ出てくる奇妙なリアリティがある。著者は「あとがき」で「この拙劣な物語の八割方はフィクションであるが、残りの二割はドキュメントである」と語っている。この二割のドキュメントの背後にはどんな事情がひそんでいるのだろうか。

ふつうはそんなことまで考えないけれども、この作品の場合にはそこまで考えさせるものがある。

ふだんあまり小説を読まないせいか、たまに読むとひどく胸にこたえる。読み終えたページを繰りなおしながら、社会的に抹殺された著者の心境に思いをはせる。